はじめに


表紙にも述べていますが、軍記物としての平家物語ではなく、

平安王朝貴族社会の中に平氏を見出していきたいというのが、私の目的です。

源平合戦の中で、10代、20代の多くの若武将が命を落とします。

彼らは平氏全盛の中で生まれ、幼少の頃より貴族のように冠位を与えられ、

王朝社会で生きてきた公達なのです。

歌を詠み、舞を舞い、管弦を奏で、恋をして・・・

美形揃いの平氏の若公達が 繰り広げる宮中はさぞかし雅やかだったことでしょう。

その一方では、あくまでも武家の子としても育てられ、世がかわると武力を要求され 力尽きていく・・・

これほど哀れを誘う平安貴族が、他にいたでしょうか?

そして、彼らをとりまく残された女性達の悲劇・・・

それらを、文学的に探ってみたいというのがテーマとなっています。

私の一番好きな古典作品は、「建礼門院右京大夫集」です。

ですから、ここでの最重要文献は「平家物語」ではなく、「建礼門院右京大夫集」です。

「建礼門院右京大夫集」の世界を別角度からとらえていきたいという目的もあります。

また、歴史上では結果として平氏が滅びゆき、貴族社会から武士社会へと 移りゆきます。

この過渡期の中で、武士でありながら、貴族と同等に いやそれ以上の地位を築き貴族社会を支配していき、

最期には武士として戦って武士に敗れた平氏一門。

平氏は源氏によって滅ぼされたのではあるけれど、私には、 後白河法皇によって、滅ぼされたようにさえ思えるのです。

あの源頼朝に「日本一の大天狗」と評された後白河法皇。

拡大しすぎた一貴族(平氏)をつぶすために、守るべきはずの王朝社会までも 滅ぼしてしまったのです。

1192年、後白河法皇崩御の年は、鎌倉幕府、 武士社会の幕開けでもあります。

忘れていませんか? 平家の時代も、まだ「平安時代」であった事を・・・

そのことからも、「貴族平家」に迫ってみたいと思っています。


履歴書に戻る